マクリーンの森 12

わたしが見張りとして暮らしていたあの山は、この分水嶺から眺めると、ブロンズの彫刻のように思われる。ただある色をもった「もの」になっているのだ。そこには人間にともなういっさいの生活臭が消えてなくなっていた。そう、まったくなくなっている。ただ一つのある色彩、一つのある形をもった「もの」となり、あとはただ空があるだけ。たとえて言えば、一人のインディアンの美女が永遠の眠りにつくまえに、かならずしも自分のいちばん美しい部分とはいえない部分を、人目にさらしたまま、残していったような感じだった。もしそうだとすれば、わたしたちがこの世界に残してゆくものは、たぶん見方によっては、多くの場合、”不思議の国”なのであり、それまでの現実の世界とは異なっており、概して、より美しいものとなっているのではないだろうか。p99

・・おおお

おやじは、いかなる問題にかんしても、またいかなる時であろうと、わたしに教訓をたれる権利を保有していて、たとえ、その問題についてまったく知識がない場合ですら、そう思っているようだった。いま、トランプ・ゲームについて説教している場合ですら、そう思っているようだった。いま、トランプ・ゲームについて説教しているのは、まぎれもなくおやじの声だったが、その声が言わんとしていたことは、手短に言うと、トランプのカードの扱いにとび抜けた才能をもった人間が、彼のうちにあるごく些細な(そのようにおやじは表現していた)欠陥ゆえに、結局は、人並みのプレーヤーのさえなれなくなるということが、時どきあるが、それだからといって、わたしたちはそれを喜んだりしてはいけない、というのであった。おやじは、トランプ・ゲームの知識はまったくもっていなかったが、このとき、彼の言った言葉は、トランプのゲームと、料理人のこともなに一つ知っていなかったということをも含めて、いかにもおやじの言いそうなことであった。p203

・・なんか笑ってしまう

見ているうちに、ビルと馬たちが急に左に曲がったかと思うと、一列となってブロジェット狭谷目ざし山道を駆け上がっていった。たった一つの小さな点となったビルの犬は、相も変わらず馬たちから一定の距離を保ちつつ道の片側を走って忠実に馬の見張りをやっていた。やがて、走ってゆく犬も、馬も、くっきりとした輪郭を失い、単に地面を這ってゆく動物でしかなくなった。道の片側を走ってゆく犬は、小さな一点となり、一列となって進む馬はただ動く一つの列となってゆく。そして、その一列もやがてゆっくりとまとまりを失ったいくつかの小さな断片となってゆく。土埃のなかを、雲のように動き、上へ上へと登ってゆく。そして、そのなかに浮かび上がってきたのは、モールス式電信符号を思わせる一つの小さな黒い点。この一点は、どう考えても、幅広い人間の背中と、黒い帽子からなるモールス符号としか思えなかった。やがて、あたりの日の光が自らの光を失い、透明そのものに変っていった。日の光が、文字通り、空漠としたあるなにものかに変っていった。そして、プロジェット狭谷に通じる狭谷の入口も、透みきった、透明そのものといってよい空間となり、大空には巨大な風穴が一つ大きな口を開けているのだった。p216

・・写実かつメタファー、動くもの、消えていくもの、去りゆくものに対する素晴らしい描写

起こるべき運命づけられていたことは、そのときまでに、すべて起こっていた。そして、見るべきものはすべてもう失われていた。いまや、空漠とした大空に広がる空間と、一編の物語ーそして、もしかすると、一つの詩の断片ーそれ以外なにも残されていない人生のある瞬間がわたしに訪れていたのだった。p218

・・はああああ〜